■子どもの権利委員会勧告
追記(2004年5月5日):メインサイトに「国連・子どもの権利委員会第2回総括所見(勧告)の特徴」(8項目)を掲載しましたので、そちらを参照してください。
(以下掲載時の本文)
国連・子どもの権利委員会が昨日(30日)採択した、日本の第2回締約国報告書に関する総括所見の日本語訳をメインサイトに掲載。いちおう複数のメンバーで訳の確認を したので日本時間の31日早朝、というわけにはいきませんでしたが、まあ公開から12時間ほどで日本語が見れるなら上等でしょう。
勧告はぜんぶで27項目(最後のパラ58は報告期限の確認と理解してここでは数えず)。詳しい評価は今後いろいろな場所で明らかにしていきますが、全体としては今後の条約実施に効果的に活用できる内容だと思います。条約実施全体に関わる積極的な特徴としては、とりあえず以下の点を指摘することができるでしょ う。
(1)「権利基盤型アプローチ」の必要性にしばしば言及されていること。これは、平野が事務局責任者を務める「子どもの権利条約NGOレポート連絡会議」のレポートでもっとも強調したことのひとつでした。たとえばパラ11(立法)、パラ13 (総合的政策)、パラ20(広報・研修)など参照。「権利基盤型アプローチ」の定義 については、平野が京都市の人権研修資料集に書いた原稿を参照してください。
(2)総合的対応の必要性が多くの課題について指摘されていること。青少年育成施策大綱の全面的見直し(パラ13)は当然のこととして、国内法の包括的見直し(パラ11)、児童虐待防止のための分野横断的戦略(パラ37(a))、障害児関連のあらゆる政策の見直し(パラ44(a))、思春期の子どもの健康のための包括的政策(パラ46(a))、若者の自殺に関する国家的行動計画(パラ48)などが勧告されています。
(3)施策の評価の必要性が指摘されていること。政府はあれをあっているこれをやっていると言うのですが、それがうまくいっているという証拠をほとんど示してい ません。子どもの問題に思いつきで対応しないようにするためにも、施策の評価は重要です。広報・研修についてパラ21(c)を、子どもの意見の尊重・子ども参加についてパラ28(c)を参照。
追記(2004年3月14日):公的支出の評価に関わるパラ17も該当します。
(4)全体として前回の勧告よりも具体的になっていること。いろいろな国に同 じような勧告をするのではなく、なるべくその国の状況を踏まえた具体的な (country-specific)勧告をしようというのが最近の委員会の方針です。たとえば子ども参加(パラ28)、プライバシー(パラ34)、教育(パラ49)などについての勧告を前回のものと比べてみてください。
(5)子どもをはじめ、さまざまな主体との協議・協力の必要性が強調されているこ と。NGOとの協力(パラ19)、子どもの意見の尊重・子ども参加(パラ28)に関する勧告はこのテーマを正面から扱ったものですが、それ以外にも、青少年育成施策大綱の見直し・実施(パラ13)、児童虐待(パラ38)、障害児(パラ44(a))、若者の自殺(パラ48)、教育(パラ50)などに関してこのような指摘が行なわれています。注意しなければならないのは、政府の施策におおむね賛同する団体ばかりと予定調和的に協力するのではなく、緊張関係を保った建設的な関係が必要だということです。
(6)自治体の前向きなとりくみが評価されていること。パラ14・15で、3つの自治体(川西・川崎・埼玉)で子どもオンブズマン的機関が設置されたことが歓迎され、他の自治体にも広げることなどを促されています。研修に関わる勧告で自治体職員が挙げられているのも(パラ21(b))、このような積極的評価にもとづくものと言えるでしょう。
他方で、審査ではかなり焦点が当たったにも関わらずまるまる抜け落ちている項目もあります(子どもの代替的養護、退去強制の問題など)。また、個別問題に関する勧告を細かく見ていくと、もう少し言えたのではないか、あるいはこれはちょっと変なんじゃないかと思われるところもあります。
しかし大切なのは、総括所見を総合的にとらえることです。第1に、特定の課題に関する所見だけを読んで判断するのではなく、上で指摘したような全体の基調に照らして所見を受けとめること。第2に、審査の内容(NGOレポートほか関連の情報も含む)を きちんと踏まえて所見を理解すること。第3に、今回の所見でもあちこちで参照されている委員会の一般的意見、一般的討議の勧告、その他の関連の国際文書も踏まえたうえで必要な対応を考えること。
第4に、この総括所見は前回の審査から今回の審査へ、そして次回の審査へと続いていく一連の流れに位置づくものだということ。前回の勧告がひきつづき実施されていかなければならないことは、今回もあらためて指摘されています(パラ7)。第5に、そういう時間的流れだけではなく、自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会、社会権規約委員会、女性差別撤廃委員会など他の人権条約機関が行なってきた勧告の流れにも、今回の総括所見は位置づいています。
こうしたさまざまな要素を考慮にいれたうえで、NGOに何ができるかを考えていくこ とが必要でしょう。総合的な視野を求められているのは政府だけではありません。
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