■子どもの権利条約Q&A
日本における子どもの権利条約の実施状況について、国内外の学生からときどき質問が寄せられます。似たような関心事をお持ちの人もいるかもしれませんので、そういうやりとりも随時ここで公開していくようにしましょう。メインサイトの「子どもの権利条約に関するFAQ」も見てください。
今回の質問は、日本の大学生がスウェーデンの大学生から質問されたものの、返答に悩んでいるということで平野に相談してきたもの。ちゃんといろいろ調べたうえでの質問は好感が持てます。日本における条約実施について2つの質問があるとのことで、次のように回答しておきました。間違っているところ、付け加えることがあったらコメントをつけてください。なお、内容は多少修正してあります。
(以下、回答)
1.CRC(子どもの権利条約)の違反があった場合に、legal action を起こしている機関・団体はあるか。そういう機関・団体があるとしたら、それはメディアでどのぐらい広く報道されているか。
legal action のとらえ方によって回答が変わってきます。
まず、日本では刑事裁判については検察官が、民事裁判については当事者またはその代理人が訴訟を提起することになっていますので、アメリカのようなクラスアクション、アメリカ・ドイツのような違憲審査訴訟、インドのような公益訴訟をいずれかの機関が起こすことはできません。人権オンブズマンないし人権委員会はいまのところ日本には存在しませんが、将来的に存在するようになったとしてもその権限は「訴訟援助」に留まり、スウェーデンのオンブズマンのような提訴権は認められないと思われます。
ただし、条約違反が同時に刑法違反であれば(すなわち特定の子どもに対して犯罪が行なわれた場合であれば)、だれでも告発することができます。このような意味での legal action は可能ですし、たとえばインターネット上の児童ポルノの通報のような活動を行なっている団体は存在します。ただ、どの程度活発に通報を行なっているかどうかは承知していませんし、それがメディアで広く報道されることもほとんどありません。
また、児童虐待のケースで親のリハビリテーションが不可能であると判断されれば、児童相談所等が家庭裁判所に対して施設措置や親権喪失の申立てを行なうことができます。
興味深いケースとして、児童養護施設のように公的資金が拠出されている施設で人権侵害が発生した場合、公金の使い方が不適切という趣旨で住民監査請求・住民訴訟などを起こすことが可能です。千葉県の児童養護施設「恩寵園」で起こった虐待事件で実際にそのような訴訟が提起され、子どもたちの救済につながるということがありました。
その他、日本弁護士連合会および都道府県弁護士会に対する「人権救済申立て」も、厳密には legal action とは言えませんが、誰でも行なうことが可能です。
2.日本ではCRCは重要な問題としてとらえられているか。
政府レベルでは、端的に言ってNOです。そのことは、政府のさまざまな施策の検討過程で子どもの権利条約および国連・子どもの権利委員会の勧告がまったく、またはほとんど参照されないことに表れています。たとえば、「教育改革国民会議」では条約は配布さえされませんでしたし、中央教育審議会の教育基本法改正の審議でも同様だったはずです。次世代育成支援対策推進法の「行動計画指針」や青少年育成施策大綱ではいちおう条約に触れられていますが、単に名前を載せているだけです。
他方、ご承知のとおりいくつかの自治体は条約を真剣にとらえています。また、条約に対するNGOの関心もたいへん高いものです。
(以上)
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