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2004.03.19

■ユニセフ公開セミナー報告1

追記(3月22日):(財)日本ユニセフ協会のウェブサイトにもう「児童買春等禁止法および児童福祉法の改正案に関するユニセフ公開セミナー」の記録が掲載されました。テープをもとにして作成したのでしょう、かなり詳しく正確な内容で、それがこれだけ早く公にされたのはたいへんすばらしいですね。会場発言の部分は若干ニュアンスが伝わりきれていない点も散見されるように思いますが。

(以下平野の記録)
3月17日(水)のユニセフ公開セミナーに行ってきました。第2回セミナーのときのように詳細な報告をするほどの内容でもなかったので、ここで簡単に報告しておきます。まずは児童買春・児童ポルノ法関連の話から。

法案の内容にはとくに変更ありません。今回のセミナーでも、第2回セミナー報告に載せた改正案骨子と同じ資料が配られました。なお、今国会に提出された改正案や提出議員・賛成議員の氏名等は「児ポ法関連情報」というサイトに載っています。提出理由については次のように説明されています。

「児童買春及び児童ポルノに係る行為の実情、児童の権利の擁護に関する国際的動向等にかんがみ、これらの行為が強い非難に値することをより明らかにし、児童の権利の擁護を十全なものとするため、これらの行為について、厳格な処罰を行うことができるように法定刑を引き上げるとともに、その処罰の範囲を広げる等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」

*改正案の内容については野田聖子議員が説明しましたが、なにせ内容が変わらないのであまり書くことがありません。法改正が必要な根拠として新たに「児童をめぐる事件の発生・悪質化」などが挙げられたのがちょっと新しい点ですが、それについては後述します。単純所持の禁止規定の新設については、児童ポルノを持ってはいけないという重みを法律に書きこむという趣旨にもとづくもので、売春防止法で売春が禁止行為とされていても(第3条)自由売春は処罰されないのと同様、今回は罰則は設けないという説明でした。もっとも、「初めて導入する禁止行為なので」罰則は設けないと表明していたので、将来的に罰則を導入するかもしれないという含みは依然残されています。

児童ポルノの範囲について、ECPAT/ストップ子ども買春の会の関係者から、「子どものように見える」出演者を使ったポルノは今後どのように扱っていってくれるのかという質問が出されました。野田議員は、「それも議論のひとつだが、表現の自由等の問題があるため、この法律では実在の児童を守ろうという現実的路線を選んだ。『子どものように見える』ポルノについては国民的合意が得られていない。犯罪防止のためにはとりくんでいかなければならないが、この法律ではここ(注/実在児童の保護)が限界」と説明。原則的回答で、そろそろこれを共通合意にしたいものです。まあ今回はコミック規制の要望が出なかっただけましでしょうか。

法案の付託先ですが、野田議員からは、法務委員会は20数本を超える政府提出法案を抱えていてとても余裕がないため、青少年問題特別委員会に付託する方向で調整中であるとの説明がありました。青少年問題特別委員会はいま法案を抱えておらず、いつでも審査できる状況だそうです。「おそらく反対はないと思うが」と前置きしながらも、きちんと審議して慎重に成立させたい旨は表明されていましたので、しっかり審議してもらいたいと思います。

民主党の対応については小宮山洋子議員から説明がありました。被害者の保護・ケア、防止のための教育、国際協力など、与党案には欠けている部分も含めた民主党案を作って審議に臨みたいとのこと。民主党内には、幸いにと言うべきでしょう、単純所持等の問題とのからみで警察権力の拡大を危惧する声が根強くあるようです。それに対して小宮山議員は、「子どもの権利に優るものはないというのが私の主張です」とか、「日弁連も、個々の弁護士さんのなかにはこの問題に熱心にとりくんでいる方々もいるが、団体になると子どもの人権派は少数になってしまう」などとおっしゃるのですね。会場からも表現の自由論に疑問を呈する意見があったので、次のように要望しておきました。

「表現の自由・プライバシーと子どもの権利は二者択一の問題ではなく、どのようにバランスをとるかという問題。子どもの保護が第一義的に考慮されなければならないのは確かだが、だからといってなんでもやっていいというわけではない。日弁連でこの問題に熱心にとりくんでいる弁護士さんたちも、警察権力の拡大は危惧している。重要な問題なのでしっかり審議を尽くしてほしい」

野田議員も「小宮山さんはたいへん苦労なさっている」と同情していましたが、しかしそれはどうしても必要な苦労なのです。小宮山議員も深く何度もうなずいてくれていましたので、おそらくわかってもらえたことと思います。規制強化を求めるNGOも、本当に子どものことを考えるなら、「表現の自由/プライバシー」対「子どもの権利」という無意味な二項対立の図式はそろそろ放棄して、どのように権利の調整を図るかという生産的な議論に進むべきではないでしょうか。

*ところで、前述したとおり、法改正が必要な根拠のひとつとして、野田議員は新たに「児童をめぐる事件の発生・悪質化」を挙げていました。その例として挙げられたのは以下の4つです。

(1)暴力団による大規模な児童ポルノ複製工場が摘発されたこと
→毎日新聞「児童ポルノビデオ:最大販売組織の暴力団員ら8人逮捕 警視庁」2003年11月11日参照)

(2)17歳の女子高校生をモデルとした児童ポルノを女性向けアダルト雑誌に掲載した笠倉出版社が書類送検された事件
→事件概要はProjectGここを参照)

(3)性的虐待を含む虐待が増加・多様化していること

(4)出会い系サイト規正法にもとづき初めて子どもが逮捕されたこと
→野田議員は「詐欺行為」にも触れていたので神奈川県の事件(読売新聞「援助交際募集の中3少女を逮捕:出会い系に書き込み」2004年3月4日)を指していたようだが、出会い系サイト規正法が未成年者に初めて適用されたのは埼玉県の事件(毎日新聞「出会い系サイト 中3女子、援助交際書き込みで書類送検」2004年3月1日)

あまり説得力はありませんね。(1)と(2)はむしろ現行法がうまく機能していることを示す事例でしょう。まあ(1)は厳罰化の根拠になりうるにしても、(2)はどうやら過失犯なので「悪質化」という評価はあたりません。(3)は児童買春・児童ポルノ法とは関係なく、むしろ更新日記「性犯罪の罰則強化」で指摘した点も含む、法律の総合的見直しの必要性を示唆するものです。

とくに(4)は今回の改正の根拠にはまったくなりません。というより、児童買春・児童ポルノ法の趣旨を理解していないのではと疑わざるを得ない。詐欺行為はともかく、性的搾取については子どもはあくまでも被害者であって買った側を処罰する、というのが児童買春・児童ポルノ法の基本理念でしょう。改正するなら、現行法に被害者不処罰の原則を明記するとともに、出会い系サイト規正法の児童処罰規定を削除するべきです。

野田議員はもうひとつ、「条約など国際社会の圧力が増していること」も改正の根拠として挙げ、国連・子どもの権利委員会の勧告(パラ52)も引いていました。しかし今回の改正は委員会の勧告にほとんど応えていません。だって委員会は「被害を受けた子どもが犯罪者として取り扱われているという報告があること」にも懸念を表明しているのですよ(パラ49(c))。国会議員が委員会の勧告に関心を持ち、それに応えなければならないと考えるのはたいへんけっこうですが、つまみ食いや我田引水はやめてきちんとした対応をとるよう期待します。

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