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2004.04.20

■人権擁護法案の部分先取り

法務省が定めた新しい人権侵犯事件調査処理規程(PDFファイル)が4月1日から施行されています。旧規程との主な相違については法務省人権擁護局のプレスリリース(3月26日付)参照。

要は、法務省の外局として人権委員会を設置しようとした人権擁護法案要綱も参照)が昨年の衆院解散にともない廃案になってしまったため、現行法の枠内でできるところは先取りしておこうという趣旨。特別事件(一定の重要・困難な事件)として「セクシュアルハラスメント、児童虐待、DV、高齢者虐待、障害者虐待に関するものを新たに加え」た(プレスリリースより)点などはその象徴です。

プレスリリースでははっきり述べられていませんが、インターネット上の名誉毀損やプライバシー侵害への対応を明確に位置づけたのも新しい規程の特徴のひとつ。特別事件のひとつとして「新聞、雑誌その他の出版物、放送、映画、インターネット等による名誉、信用等の毀損又は重大なプライバシー侵害」(下線引用者)が挙げられたほか(規程第22条8号)、(地方)法務局長がとりうる措置として「人権侵犯による被害の救済又は予防について、実効的な対応をすることができる者に対し、必要な措置を執ることを要請すること(要請)」が新たに規程されました(規程第14条1号)。

すなわち、掲示板の開設者やインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)に対して情報の削除要請(排除措置)を行ないうることが明確化されたわけです。法的拘束力はないにせよ、表現の自由とのからみでますます微妙な問題が生じることは間違いありません。これまでにも少年被疑者のプライバシー等をめぐって法務局が「勧告」等を行なった例は少なくありませんが、まがりなりにも表現・報道の自由にコミットメントしている出版社や放送局とは異なり、ISP等のなかには「やばそうだから言われたとおりにしておこう」という安易な対応をするところが増えないかどうか。

実際、法務省人権擁護局が2月19日に発表した「平成15年中の『人権侵犯事件』の状況について(概要)」を見ると、イラクで殉職した日本大使館職員2名の遺体の映像がインターネット掲示板に掲載された件について、外務省の依頼を受けて法務省人権擁護局が排除措置をとった事例が報告されています。「このような映像がインターネット上に流布することは、御遺族の方々の追慕の念を著しく傷つけるものである上、2次利用されるおそれがあることから、人権擁護の観点上、問題があると判断」したとのことですが、このような対応が一般化すれば、戦争の悲惨さを伝える写真がすべて排除措置の対象とされるのではないかとの懸念もぬぐえません。遺族ではなく外務省が依頼したという点にも違和感を感じます。

新たな規程でも依然として「人権」の定義は不明確ですし、それぞれの問題についてどのような法的根拠にもとづいて対応しようとしているのかも明らかにされていません。一刻も早く真の意味で独立した人権委員会を設置するとともに、人権や差別に関わる法律を整備したうえで救済活動に臨んでもらいたいと思います。

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