■CRC総括所見:政府訳
外務省ウェブサイト「児童の権利」コーナーに、国連・子どもの権利委員会第2回総括所見の政府訳(仮訳、PDF)が掲載されました。歓迎の意を表するとともに、委員会の事前質問事項に対する文書回答(英文、PDF)の日本語訳も早めに掲載していただくよう要望しておきます。
このほか、日本弁護士連合会訳(PDF)もウェブに掲載されました。子どもの権利条約NGOレポート連絡会議訳を含め、インターネット上では3種類の日本語訳が入手できるようになったわけです。このほか平野によるチャイルド・フレンドリー(子ども向け)版もあります。
政府訳をざっと読んでみて、日本語としての読みやすさはともかくとしていくつか気になった点を記しておきます(英語原文はこちら)。
*パラ22・23(子どもの定義)および51・52(性的搾取)で、the minimum age of sexual consentが「性交同意最低年齢」と訳されています。ここでは性器の挿入をともなう「性交」以外の性的接触も問題とされますので、「性的同意最低年齢」または「性行為同意最低年齢」とするべきでしょう。刑法でも、13歳未満の子どもは性交のみならずそれ以外の性的接触についても同意能力がないと見なされています(第176条・177条)。
*パラ25(差別の禁止)で、proactive measuresが「将来を予見した措置」と訳されています。確かに辞書(リーダーズ英和)を引くと「先を見越して行動する」等の訳語が載っており、間違いではないのですが、ちょっとわかりにくいかも。proactiveとは要はreactiveの反対で、「問題に反応してそれから改革するのではなく、問題が起こる前に事態を改善するための改革を行なうこと」(ロングマン現代アメリカ英語辞典)という意味です。事後的対応のみならず予防のためのとりくみが重視されているという総括所見の特徴がここにも表れているわけです。平野はたいてい、「受け身の対応ではなく」という意味をこめて「積極的(な)」と簡単に訳しています。
*パラ28(d)(子どもの意見の尊重)で、participate systematicallyが「定期的に参加する」と訳されています。「制度的に」「組織的に」「体系的に」などと訳されるべきところですので、これはたぶん誤植か何かでしょう。
*パラ31(国籍)で、undocumented migrantsが「不法移民」と訳されています。困ったことに日弁連訳も同様です。この用語は、刑罰法規ではなく行政法規に違反したにすぎないことを明確にし、illegal migrantsという言葉にともなう差別的ニュアンスや犯罪者視を回避するために、国際社会で意識的に使用されているもの。リーダーズ英和でもundocumentedの訳語として「正式書類のない、認可を受けていない、査証を持たない」などが挙げられており、やはり「資格外滞在の」とか「在留許可を受けていない」などと訳すべきでしょう。
*パラ45・46(思春期の子どもの健康)で、drug abuseが「薬物中毒」とか「麻薬中毒」と訳されているのはちょっとあんまりでは。仮にaddictionという言葉が使われていたとしても、最近は「中毒」とは言わずに「依存(症)」とするのが一般的です。たぶん単純ミスでしょうが、きちんと「薬物濫(乱)用」と訳すべきでしょう。また、パラ46(a)のreproductive healthという言葉にも特有の意味合いがありますので、「生殖面の健康」とやらずにそのまま「リプロダクティブ・ヘルス」にしておいたほうがよいと感じます。
*パラ52(性的搾取)で、those soliciting ... sexual servicesが「性的サービスの需要者」と訳されています。「需要者」という表現はともかく、性的サービスを求める側を対象とした対策もとれと解釈したほうが確かに望ましいのですが、solicitという言葉はこういう文脈では〈性的サービスの提供者またはその斡旋者が客を勧誘する〉という意味で用いられるのが基本ですので、はたしてどうでしょう。
*パラ53(少年司法)の第1文は言葉が欠落しているようで、文としての構造がおかしくなっています。またパラ54(a)では、少年司法の運営に関する委員会の一般的討議の勧告「に照らして」関連の国際基準を実施するよう勧告されているところ、同勧告そのものについても「完全な実施を確保すること」と訳されています。もちろんそれに越したことはありませんが、原文に忠実な日本語訳ではありません。
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