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2004.06.16

■児童買春・児童ポルノ法改正

で述べたとおり、児童買春・児童ポルノ法は先の国会で改正されました。児童ポルノの単純所持については最後までもめたようですが、平野が法改正に関する意見書レジュメで提言したとおり、禁止規定は創設せずに衆議院の付帯決議で次のように述べることで決着がついています(付帯決議全文は衆議院・青少年問題特別委員会6月1日会議録参照)。

「その一方、児童ポルノの所持一般を違法化すべきか否かについて、本委員会では必ずしも意見の一致をみなかった。しかし、違法化の是非はともかくとして、少なくとも児童ポルノの所持が一般に、児童の権利侵害と関連する行為であることは何人も否定できない事実であり、本委員会としても児童ポルノが根絶されることを願うものであって、このような所持を減少させるための取り組みも必要である。そのためには、成人の意識を高めるとともに児童に対する教育を充実させ、問題を根本的に解決することが求められているところであって、政府は、児童の権利に関する国民の理解を深めるための社会啓発、教育について万全の措置を講じ、児童ポルノの根絶に努めるべきである」

したがって、当初国会に提出された議案(衆法12号)は6月1日にいったん撤回され(議案審議経過情報)、同日、衆法43号として提出しなおすという手続が踏まれています。要は、単純所持を禁じた第6条の2の新設をあきらめたということです。

単純所持の禁止規定が今回盛りこまれていれば、3年後の見直しでは、適用除外項目についてまともに議論することなく処罰規定を設けようとする動きが間違いなく出てきていたでしょう。なにしろ、前述の意見書レジュメで述べたように今回の改正にはほかにも議論すべき点があったにも関わらず、衆議院では審査省略のまま可決され、立法者意思はまったく明らかにされなかったのです(議案審議経過情報および前掲会議録参照)。

参議院では吉川春子議員(日本共産党)が質問に立ちましたが、児童買春・児童ポルノの検挙状況や起訴・有罪件数、「犯罪件数の多さ」の原因およびそれに対する政府の対応、法定刑引上げの意味、単純所持禁止の見送りの背景、捜査共助に対する政府の対応について質したのみで、具体的論点についての立法者意思はやはり明らかにされずじまいでした(参議院・法務委員会6月10日会議録参照)。こうした不透明な立法プロセスについては、はてなダイアリー「kitanoのアレ」でも批判されています(6月1日のエントリー)。

ただし、吉川議員の質疑によっていくつかの興味深い点が明らかにはなったのは収穫でしょうか。ひとつは、野沢法務大臣が「法務大臣就任のときに小泉総理から特命をちょうだいした一つが、犯罪をとにかく減らす世の中にしてほしい、安全、安心な国に戻してくれという特命をちょうだいしておりますが、その中でも少年犯罪とかあるいはこういった児童ポルノの問題、あるいは外国人犯罪、こういったものが大変重要な役割を占めているということから関心を持ってまいりました」と答弁したことに表れているように、児童ポルノ問題がけっきょくは治安対策強化の口実として利用されているということです。

もうひとつは、やはり3年後には児童ポルノの単純所持の処罰化が目指されているらしいということ。法案提案者のひとりである葉梨康弘議員(自由民主党)は、「しっかりと運用を積み重ねて、国民意識の高揚を図りながら処罰化の是非の議論を詰める」、「児童ポルノが大きく児童の権利を侵害するものであること、これをしっかりと教育、啓発することに努めて、そしてその中で議論を詰めながら、例えば三年後には必要な見直しを図っていきたい」と表明しています。「実は国によって、例えばコミックですとか、あるいは大人が児童に成り済ましたポルノの問題、これに対しても厳しいといったように、運用の在り方、あるいは社会悪である児童ポルノに対する接し方が多少違いがある」とも述べていることから、実在する子どもの虐待によって製造されたものではないポルノについても、次回の見直しでふたたび規制論が再燃する可能性があります。

いずれにせよ、検挙件数が何件かという表面的なところにばかり注目するのではなく、その過程で被害者や容疑者がどう扱われているか、海外の単純所持処罰規定が実際どの程度の効果を収めているかという点も含めて法律の運用を監視し、本当の意味で「議論を詰め」ていってもらいたいものです。

追記(6月20日):書いたあと気づきましたが、6月3日の衆議院・青少年問題特別委員会でちょっとだけやりとりが行なわれていました。

葉梨康弘議員(自由民主党):……先般の児童買春の法律の改正、これについては非常に時宜にかなったものであるというふうに思っています。ただし、何せ日本人になかなかなじみがないんです。それで、さらに急激にIT社会化しているということで、その運用について一部国民に不安があるのも事実でございます。
 時間がないので一例だけ。法案では、電磁的方法による児童ポルノの提供、いわゆる送信が禁止されていますけれども、例えば、送られたメールの添付ファイルの中身をよく確認しないで転送した、そうした添付ファイルの中身が児童ポルノだったような場合、取り締まりの対象となるのかどうか、簡潔にお答えください、警察庁。
伊藤哲朗・警察庁生活安全局長:添付ファイルの中身について、送信者の認識というものが出てくるだろうと思いますけれども、場合によっては犯罪成立の判断あるいは立証といった問題で難しい場合も出てくるであろうというふうに予想されるところでございますけれども、警察といたしましては、法の規定を厳正かつ適正に運用いたしまして、児童ポルノによる児童の性的搾取を可能な限り防止してまいりたいと考えているところでございます。(引用終了)

ほとんど参考にはなりませんが。また、法律の運用について「一部国民」が不安を感じているのは、「急激にIT社会化している」からではなく、そのことを口実に、きちんとした議論もなく警察権力を拡大しようとする動きが顕著だからです。

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コメント

改正児童ポルノ法についてですが、単純所持を処罰する場合の、IT化による不安というのはやはりあると思いますよ。

メール云々だけのケースではなく色々と想定できます。

例えば、アクセスしただけで知らぬ間にウィルスに感染するサイトがあります。
また、勝手に特定のサイトにアクセスして画像をダウンロードするウィルスもあります。
そうしたウィルスの特徴として、素人はどこに何がダウンロードされたのかわかりにくいというものが挙げられます。
まさに、自分の気づかないうちに、性犯罪者となり、性犯罪の前科がつく。これは、一生をめちゃくちゃにしかねない問題であり、非常に怖いと思います。

また、単純所持を処罰している国が少ない理由の一つに、ジャーナリズム目的で所持しても、逮捕されるため、児童ポルノという犯罪が地下にもぐりやすくなるという点が挙げられるそうです。

投稿: ロナウド | 2005.02.25 06:15

初めまして、貴重な情報を有難うございます。
貴殿のHPを数年前に知り、お気に入りに入れておいて最近気になりコメントさせていただきます。
>改正児童ポルノ法についてですが
>2004.06.16
>児童買春・児童ポルノ法改正
のその後の動向について教えてください。
単純所持も心配になります。
そろそろ処分の必要があるかと・・・・。

投稿: hhh | 2005.07.02 17:23

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