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2004.06.03

■CRC審査:フランス

昨日(1日)の北朝鮮(第2回)の報告審査に続き、今日はフランス(第2回)の審査でした。これで委員会の審査はすべて終了し、明後日(4日)には総括所見が採択されることになります(追記:採択されました。下記参照)。

フランスからは、家族・子ども省大臣が率いる30名近くの政府関係者から構成される、日本以上の規模・レベルの代表団が出席。NGOの傍聴者も、こちらは日本ほどではありませんが(笑)40名近くいて、傍聴席はいっぱいでした。

フランスは、前回の審査(1994年)以降、子どもオンブズマンの設置(2000年)、家族法や性的虐待・搾取等の分野における数々の法改正をはじめとしてさまざまな積極的措置をとり、ある委員からも「条約にとってもっともよい友人のひとつ」と評された国です。ちなみに、審査ではとくに取り上げられませんでしたが、1997年にはいわゆる「新入生洗礼」など教育施設での組織的いじめを処罰する法律も採択されています。

もちろん問題点も少なからず残されており、子どもオンブズマンが委員会に独自に提出した報告書(PDF、仏語)でも多くの問題点が指摘されているようです(その報告書は多くの委員によってしばしば明示的に参照されました)。

しかし今回の最大の話題は、学校で公然たる宗教的シンボル(主にイスラム教徒の女子生徒がかぶるヒジャーブが念頭に置かれている)を禁止し、指示にしたがわない場合には退学等の懲戒処分を課すことができるという新法。政府代表は、このような規制が必要とされるに至った背景について長々と説明しましたが、要は、学校を完全に政教分離の場所にして中立性を確保するにはヒジャーブの着用による「破壊的な影響」を防止しなければならないということです。

けれども、学校の中立性を確保するためにどうして生徒の宗教的表現を規制しなければならないのか、いったいどのような「破壊的影響」があるのか、フランス以外の人間にはなかなかわかりにくいのも事実。とはいえフランスではNGOも(そして多くのイスラム教徒も)政府・議会の姿勢を支持しているようで、平野の隣に座っていたNGOの女性も政府代表の説明にしきりにうなずいていました(そしてこの点に関わる委員からの質問にはしきりに首を横に振っていました)。

驚いたのが、委員会のドゥック議長が政府代表のこの説明に「非常に遺憾だ」と怒りを露にしたこと。政府代表の説明に「寛容」への言及が一言もなかったこと、自分の大学のクラスにもヒジャーブを着用する生徒がいるが破壊的影響などまったくないことなどを指摘し、「人権の歴史を持つフランスがどうして特定のグループに対してこのような対応をとるのか」「どういう問題があってこのような法律ができたのか。破壊的影響というのは着用した生徒によってもたらされたのか、それに対する他の生徒の反応によってもたらされたのか」などと質しました。政府代表の答弁や委員からの質問の長さや質について議長がいらだちを表すのはよくありますが、実質的問題についてこれほど怒るのは珍しいことです。

政府は公式見解を堅持しましたが、総括所見では間違いなく何らかの形で触れられることになるでしょう。この問題はドイツの第2回報告書審査(第35会期、2004年1月)でも取り上げられ、次のような所見(CRC/C/15/Add.226)が出されています。

30.委員会は2003年9月24日の憲法裁判所決定(2 BvR 1436/02, Case Ludin)に留意するものの、現在いくつかの州で議論されている、教職員が公立学校でヘッドスカーフを着用することの禁止を目的とした法律について懸念する。このことは、宗教の自由に対する権利についての子どもの理解、および、条約第29条の教育の目的で促進されている寛容の態度の発達に寄与しないためである。
31.委員会は、締約国が、とりわけ特定の宗教的グループを選び出すような措置を避けることにより、とくに宗教、良心および思想の自由の分野において理解および寛容の文化を発達させることを目的として、子ども、親その他の者を対象とした教育的その他の措置をとるよう勧告する。

追記(6月5日):フランスに対する第2回総括所見(CRC/C/15/Add.240、PDFファイル)では以下のような所見が出されました。

25.委員会は、憲法が宗教の自由を規定していること、および、政教分離に関する1905年の法律が信仰にもとづく差別を禁じていることに留意する。委員会は同様に、締約国が公立学校における政教分離を重視していることを認識するものである。しかしながら、条約第14条および第29条に照らし、委員会は宗教にもとづくものを含む差別が増加しているとの訴えを懸念する。委員会はまた、公立学校で宗教的標示を着用することに関する新法(2004年3月15日の法第2004-228号)は、子供の最善の利益の原則および教育にアクセスする子どもの権利を阻害することにより逆効果となり、かつ所期の結果をもたらさない可能性があることも懸念するものである。委員会は、同法の規定が施行1年後に評価の対象とされることを歓迎する。
26.委員会は、締約国が、同法の効果を評価するさいに子どもの権利の享受を評価プロセスの決定的な基準として用いるとともに、個人の権利が侵害されないことおよび子どもがこのような法律の結果として学校制度その他の環境から排除または周縁化されないことを保障しつつ、公立学校の政教分離の性格を確保するその他の手段(調停を含む)も検討するよう勧告する。学校の服装規定については、子ども参加を奨励しながら公立学校内部で対応したほうがより望ましい対応ができる可能性がある。委員会はさらに、締約国が、新法の結果として退学させられた女子の状況をひきつづき注意深く監視し、かつこのような女子が教育にアクセスする権利を享受できることを確保するよう勧告するものである。

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