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2004.07.12

■人身売買への対応強化へ

米国務省から2年続けて「人身売買への対応が不充分」と指摘されたこともあってか、人身売買への対応強化に向けた動きが盛り上がっています。6月17日付朝日新聞は、「人身売買処罰へ法整備 売春・強制労働阻止に法務省方針」として、法務省が今秋にも人身売買罪の創設などを法制審議会に諮問する意向だと報道。東京入国管理局も、「興行ビザ」で来日した女性の追跡調査を開始する方針を明らかにしました(7月4日付読売新聞「『興行ビザ』厳しく監視、外国人女性を追跡調査へ」)。

子どもの人身売買については、子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する子どもの権利条約の選択議定書の批准のために児童福祉法改正が提案されています(更新日記「ユニセフ公開セミナー報告2」参照)。参院選後の国会でこれが成立すれば選択議定書もいちおう批准できるということになっているわけですが、それで充分なのだろうかと疑問を抱いたある団体の幹部と、昼食がてら先日話をしてきました。そのとき言い足りなかったことも含め、ここに書いておきましょう。

まず大前提として確認しておかなければならないのは、
(1)人身売買を主として法的秩序または(および)国家主権の侵害としてとらえるのか、
(2)主として人権侵害としてとらえるのか、
という問題です。

人権侵害としてとらえるべきだという世論は形成されつつあるように思われますが、そうだとして、
(2-a)子どもの権利条約の選択議定書国際組織犯罪条約の補足議定書(PDF)といった関連の国際条約に抵触しなければよいという最小限主義的(minimalist)アプローチをとるのか、
(2-b)人身売買という人権侵害の防止および被害者の保護を効果的に進めるために最大限主義的(maximalist)アプローチに立ってできるだけのことを勧めるのか、
という問題があります。

そもそも、2-aの最小限主義的アプローチをとるとしても、児童買春・児童ポルノ法および児童福祉法の改正だけで子どもの権利条約の選択議定書の規定が担保されるのか、疑問が残ります。選択議定書では、「養子縁組に関する適用可能な国際法文書に違反し、仲介者として不適切な形で子どもの養子縁組への同意を引き出すこと」の犯罪化も求められているためです(第3条1項(a)(ii))。とりわけ国際養子縁組について充分な規制が行なわれていないと思われることは国連・子どもの権利委員会からも指摘され、国際養子縁組における子どもの保護および協力に関するハーグ条約(抄訳が「シドさんの里親のホームページ」に掲載されています)の批准も含む対応を勧告されました(パラ39・40)。ここでいう「不適切な形で……同意を引き出すこと」には、金銭的その他の対価の提供、出生前の同意獲得なども含まれると解釈できますが、これが刑法的に担保されていると言うのは無理でしょう。

さらに、本気で人身売買問題にとりくもうと思えば、2-bのアプローチに立たざるを得ません。だとすれば、上述した条約だけではなく、国連人権高等弁務官事務所の「人権と人身売買に関する原則および指針の勧告」も踏まえ、被害者保護のための充分な手立ても用意する必要があります。

ところが、刑法で人身売買罪を創設しても被害者保護にはつながりません。このことは、被害者保護の規定を持つ児童買春・児童ポルノ法のもとでさえ充分な対応が行なわれていないことからも、火を見るより明らか。東京入管による追跡調査にしても、けっきょく「不法就労」という観点からの対応が重視されているようです。法務省ウェブサイト「人身取引撲滅への取り組み」によれば、被害者に対しては(1)速やかな帰国の実現、(2)仮放免の弾力的な運用(および捜査協力のための一時的滞在)、(3)事案に応じた在留特別許可の付与などの対応が行なわれているようですが、あくまで行政裁量の範囲内に留まっています。

被害者保護のために柔軟かつ積極的な運用が行なわれると信じたいところですが、それだけの実績は入国管理局にはありません。また、もっとも重要なのは被害者から信頼してもらえることですが、それも現状では無理でしょう。やはり、出入国管理法の改正または人身売買禁止法の制定のいずれかにより、(1)関連の刑事・民事手続が終結し、かつ(または)安全かつ尊厳のある帰国が可能になるまでの一時在留権、(2)安全かつ尊厳のある帰国が不可能な場合の在留特別許可、(3)刑事・民事手続における代理人の公費保障、(4)身体的・心理的回復のための公的援助といった諸権利を保障することが必要かと思われます。

さらに言えば、出入国管理秩序の維持と人身売買被害者・難民希望者への対応をどちらも出入国管理局が行なうというのには、やはり無理があるのでは。後者については出入国管理局から切り離し、第三者機関が担当するようにすべきだと思います。この点、民主党が提唱しているように(更新日記「参院選マニフェスト:民主党」参照)、内閣府外局に「難民認定委員会」(人身売買被害者も対象とするなら「外国人保護委員会」でしょうか)を設置するという方法を積極的に検討することが必要です。

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