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2004.07.25

■「有害情報」米最高裁判決

6月28日、アメリカ連邦最高裁で子どもオンライン保護法(Child Online Protection Act of 1998)の施行差止めが支持されました(同法の日本語訳は夏井高人氏による仮訳を参照)。少々旧聞に属する話ですが、「遠のく子どもの情報アクセス権」でも触れたとおり日本ではまだまだ「有害情報」からの「隔離」に過剰な関心を抱く勢力が強いので、いちおう触れておきましょう。

COPAは、未成年者(17歳未満の者)にとって有害な内容を商業目的で配布するウェブサイトの運営者に対し、未成年者の者によるアクセスを効果的に遮断する措置をとるよう義務づけたもの。違反者には、6月以下の拘禁や1日あたり5万ドル以下の罰金などの処罰が科されます。ただし、クレジットカードを決済手段にするなど合理的な年齢認証手段をとっていれば処罰対象にはなりません。

ようするに、1998年改正風適法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)による「映像送信型性風俗特殊営業」の規制と考え方は同じです。「専ら、性的好奇心をそそるため性的な行為を表す場面又は衣服を脱いだ人の姿態の映像を見せる営業で、電気通信設備を用いてその客に当該映像を伝達すること」(第2条8項)と定義される映像送信型性風俗特殊営業については第1節第3款で規制されていますが、「18歳未満の者を客としてはならない」こと、「客が18歳以上である旨の証明又は18歳未満の者が通常利用できない方法により料金を支払う旨の同意を客から受けた後でなければ、その客に第2条第8項に規定する映像を伝達してはならない」ことなどが定められています(第31条の8)。これに違反した事業者に対しては公安委員会が必要な措置をとるよう命ずることができ(第31条の10・11)、その命令に従わなかった場合は6月以下の拘禁の懲役もしくは50万円以下の罰金(またはその両方)です(第49条3項11号)。

このようなCOPAの規定について、連邦最高裁は、表現の自由を定めた連邦憲法修正第1条に違反する疑いがあるとして、下級審が言い渡した仮差止め命令を支持して審理を差し戻しました。青少年を性的にあからさまな表現から保護することの必要性自体は認めながらも、刑事罰を科すよりも制限度の少ない代替手段(less restrictive alternative)ではその目的を達成できないことが政府側によって立証されなかった、というのがその理由です。

より制限度の少ない代替手段として連邦最高裁が着目したのは、ブロッキングやフィルタリングなどの情報遮断・選択技術でした。判決要旨(Syllabus)では、これらの技術を用いることにより、発信元を総括的に規制するのではなく受け手側で選択的規制を行なうことが可能になること、したがって表現の自由に対する萎縮効果は解消される(もしくは相当に減殺される)こと、COPAよりも効果的規制を行ないうることなどが指摘されています。成人にとっては保護されている表現を刑事罰という手段で規制するのではなく、学校や図書館に対してフィルタリング・ソフトの使用を奨励する強力なインセンティブを与えること、産業界によるフィルタリング技術の開発および親による使用を奨励することなどの手段を活用できるというわけです。

要は、「有害情報からの保護」は基本的に親や学校に委ね、それを支援するためにブロッキングやフィルタリングを活用すべきだという結論。ブロッキングやフィルタリングについてもいろいろな問題はあり、子どもの情報アクセス権が著しく侵害される可能性は残されていますが、判決が言うように「奨励」のレベルに留まるのであればまだ問題は少ないと言えるでしょう。

ただし、今回の判決はあくまでも差戻し決定であり、フィルタリング等では目的を達成できないことを政府側が立証できた場合、最高裁の判断も変わる可能性があります。今回の判決も5対4の僅差であり、ブレイヤー判事が詳細な反対意見を執筆しています。その意味で、「インターネットの自由の勝利」などと手放しで喜ぶのは気が早すぎると言えるでしょう。また、メディア・リテラシーの育成など子どものエンパワーメントについては、判決ではまったく触れられていません。

いずれにしても、子どもを「有害」情報から保護するために刑事的規制をかけることについてもっと慎重に考えるべきだというメッセージは、日本でも汲み取ってほしいものです。賛成意見を執筆したスティーブンス判事は次のように述べています。

「子どもも孫もひ孫もいる身としては、そのような〔性的にあからさまな表現から未成年者を保護するという〕目標を手放しで支持する。しかし裁判官としては、子どもを好色な表現から保護するという利益が、おとなが子どもの視聴習慣を監督することの代替手段(または単なる補充手段)として表現の自由の刑事規制を用いることを正当化するために持ち出されることに対し、不安感が高まるのを告白せざるを得ない」

また、前にも「最近読んだ本」で紹介しましたが、COPAの制定前に司法長官補が連邦下院議長に送った書簡もあらためて引用しておく価値があるでしょう。

「COPAのために稼動を割かれると、せっかく効果をあげつつある子どもポルノ対策が台無しになるおそれがある。……COPAの実質的効果が不透明であることを考えると、その施行のためにかぎられた稼動を割くことは、決して賢明な策とはいえない」(訳文は城所岩生(著)『米国通信改革法解説』木鐸社・2001年・341頁より引用)

その他、関連の情報については「kitanoのアレ」に詳細なリンクが掲載されています(6月29日のエントリー)。また、この問題についてより詳細に知りたいかたは、前掲書のほか、松井茂記(著)『インターネットの憲法学』(岩波書店・2002年)、永井善之(著)『サイバー・ポルノの刑事規制』(信山社・2003年)などを参照。

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