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2006.05.31

■HIVの母子感染と日本ユニセフ協会

5月23日に(財)日本ユニセフ協会が開催したHIV/AIDSに関するシンポジウムのポスターで、「母が子の加害者になる。それが、エイズの現実です」というキャッチコピーが使われていました。

このコピーには大きな問題があると感じたので、5月13日にユニセフ協会広報室に次のようなメールを送りました。『世界子供白書』の翻訳を毎年受注している者としてはあまり事を荒立てたくないのですが、むしろそういう立場にあるからこそ、指摘すべきことは指摘しておいたほうがよいと考えてのことです。

5月23日のシンポジウムの案内をお送りいただき、ありがとうございました。その日は東京におりませんのであいにく参加はできませんが、キャッチコピーに重大な問題があり、後々トラブルになるといけないと考え、差し出がましいとは承知しつつご意見申し上げます。

今回、「母が子の加害者になる。それが、エイズの現実です」というコピーが使われているわけですが、このコピーには次の2点から問題があると感じます。

1.そもそも、母に感染をさせたのは誰でしょうか。多くの場合(おそらく圧倒的多数のケースで)夫、すなわち子どもの父親であると思われます。このような背景を考慮せずに母子感染に特化して問題を取り上げ、あたかも母親に問題があるかのようなコピーを用いるのは、「意図せずして」というニュアンスはあるにしても、あまりにも一面的です。

2.子どもの感染したことに一番ショックを受けるのは、ほとんどの場合、母親ではないでしょうか。子どもが感染していることを知り、そのことによって自分の感染も知り、そして自分を通じて子どもが感染した事実を突きつけられることは、並大抵のショックではありません。そのショックから立ち直り、子どもとともに、そしてHIV/AIDSとともに生きていけるようにするためのエンパワーメントが必要です。母親に「加害者」のレッテルを貼ることは、むしろディスエンパワーメントにしかつながらないのではないでしょうか。女性のエンパワーメントを標榜するユニセフの立場にも逆行していると感じます。

代理店かどこかに外注したコピーが十分なチェックを受けずに用いられたのだと推察しますが、このコピーを用いた画像データをウェブサイトから削除するとともに、シンポジウムおよびウェブサイトでしかるべき説明を行なったほうがよいのではないかと思っています。よろしくご検討ください。

東京都・練馬区議会議員の池尻成二さんも、問題点を指摘するメールを送り、ユニセフ協会から回答を受け取ったことを報告されています。平野のほうには回答がなく、池尻さんへの回答を見ても母子感染を母子の加害-被害関係でとらえることの問題性が十分に理解されていない印象を受けますが、ユニセフ協会ウェブサイトの「子どもとエイズ」世界キャンペーンのページからはすでに当該ポスターの画像が削除されているようです。 この分野で日本ユニセフ協会が果たす役割は重要なだけに、子どもと女性の権利を基盤とするアプローチをいっそう徹底していってほしいと思います。

追記(6月15日):日本ユニセフ協会の広報室長より、お返事をいただきました。「この問題を考えるきっかけとなる言葉を……ということで、図案とともに提案していただいたものを採用した」が、「現場での予防キャンペーンのスローガンなどが差別を助長するような内容にしてはならない」という観点からは注意不足・配慮不足であったことは間違いなく、「今回の重大な反省点」であると認めていただきました。パネリストからも何度か関連する指摘があったようです。今後は人権とエンパワーメントの視点に立った活動を進めていっていただけるものと期待します。

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コメント

時間の前後からしても、ユニセフ協会との関わりの経過からしても、平野さんの問いかけにこそまず誠実に答えるべきところ、まだ回答が届いていないとのこと、残念な気持ちです。逆に、それだけ重く受け止めてくれているのであればよいのですが…。ブログ、ホームページを拝見し、とても参考になります。目黒区が子ども条例を制定し、練馬区でも何とか子どもの権利に軸足を置いた条例を作らせたいと思っています。機会があればぜひ練馬にもお出かけください。

投稿: 池尻成二 | 2006.05.31 22:43

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