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2006.06.27

■30代未婚男

*大久保幸夫・畑谷圭子・大宮冬洋(著)『30代未婚男』NHK出版(生活人新書185)・2006年

本書でいう「30代未婚男」とは「一度も法律上の結婚を経験していない30~39歳の男性」(4頁)を指しており、事実婚しか経験していない平野も該当します。本書で槍玉にあげられている「30代未婚男」の当事者としては、困った本だとしか言いようがありません。男性の未婚化が進む理由についての分析にはそれなりの妥当性もあるかもしれませんが(もっとも西野坂学園時報「醜悪なるおやぢイズムの檻にはまる大久保幸夫」を読むとやはり的外れな指摘が多いようです)、けっきょくはライフスタイルの多様化に対するバックラッシュの役割を担っていると言うことができます。森昭雄(著)『ゲーム脳の恐怖』(2002年、コメントはこちら)といい、NHK出版の生活人新書は「トンデモ本」の宝庫だという評価も高まりつつあるようですが、さもありなん。

本書の内容は、端的に次のようにまとめることが可能です。

(a) 「独身主義とは、……過渡的な『心理状態』であり、恒常的に結婚を否定するようなものではないと思う」(21頁)として、男性はみんな結婚したがっていると決めつけ、
(b) 男性が「非婚」(事実婚を含む)のライフスタイルを選び取る可能性と、その選択を支える社会のあり方など最初から考えもせず、
(c) たったひとつの意識調査結果(経済同友会「個人の生活視点から少子化問題を考える」2005年)を根拠に、「未婚は不幸につながる道」(27~30頁)、「未婚は短期的には楽しいが、長期的には不幸である」(231頁)などと脅かし、
(d) 当事者の肉声(第3章、9ケース)よりもむしろ結婚促進産業関係者の言葉を熱心に伝え(第4章~第6章)、
(e) 全体として〈30代にもなって法律婚をしていない男はどこかおかしい〉という空気を煽る本。

(a) の点について、「あなたの周りに『独身主義』を宣言している人はいるだろうか。私にはそのような人はいない」(21頁)とも述べていますが、だから男はみんな結婚したがっているという話にはなりません。(c) との関連で引用されている経済同友会の調査でも、1960年代生まれの11.8%、80年代生まれの6.8%が「結婚するつもりはない」と答えています(Q12への回答)。男女別の数字は明らかにされていませんが、「結婚するつもりはない」と答えた回答者がすべて女性とは思えません。

たとえば平野はかぎりなく「独身主義」に近い立場です。あえて「宣言」するほど独身に固執しているわけでもなく、将来気が変わる可能性を全否定はしませんが、アンケートで「あなたは、いずれ結婚したいと思いますか」と問われれば、「どちらともいえない」ではなく「結婚するつもりはない」という回答を選択するでしょう。結婚しようと思えばできた(であろう)機会も幾度かありましたが、ここ10年ほどこのような姿勢は変わっていません。これでも「独身主義」は「過渡的な心理状態」でしょうか。

(c) については、「未婚は不幸につながる道」という主張のたったひとつの根拠として引用されている経済同友会の調査結果を見ると、確かに既婚・子どもありのほうが「現在の生活に満足している」と答えた割合は高くなっています。とはいえ、「未婚」男性でも32.7%(1960年代生まれ)、47.2%(40年代生まれ)、59.2%(80年代生まれ)が「満足している」と答えているのであり、「未婚は不幸につながる」と決めつける根拠は希薄です。さらに、現代の生活に満足していない理由が本当に未婚・子どもなしという事実によるものなのか、あるいはそれ以外の要因によるものなのかについても検証されていません。

そもそも、『30代未婚男』という書名・用語自体に侮蔑的ニュアンスがあります。もっと価値中立的な書名はいくらでも考えられるでしょうし、一字加えて「30代未婚男性」とするだけでだいぶ印象は変わるものです。現に209頁では「30代未婚女」ではなく「30代未婚女性」という言葉が使われています。40代まで「独身でいたことの理由をうまく説明できないと、不気味な、もしかしたら何か欠陥のある人という烙印を押されかねない」(28頁)と書いていますが、そういう風潮を変えようという問題意識などはさらさらなく、むしろ後押しする始末です。というよりも、こういう風潮があるから安心して「30代未婚男」を叩けるということでしょう。

最後に「30代未婚男問題はきわめて個人的な問題だが、その背景理由には、人間を幸福にしない何か大きな要素が存在していて、その要素は結婚問題に限らず、その他の社会問題を引き起こすかもしれない大きな危険を孕んでいる」とむりやり視点を広げて見せますが(230頁)、こじつけの感は否めません。しかも、それを踏まえた結論が〈だから社会をこう変えよう〉ではなく「旬のときに決断しよう」(とっとと結婚しよう)では、あまりにも社会的視点がなさすぎます。

なお、著者らの年齢、既婚・未婚の別、子どもの有無等については、大宮が1976年生まれの未婚者であることを除き、明らかにされていません。別に明らかにしなくてもいいのですが、制度論に留まらずに他人様のライフスタイルについてまでとやかく言うのであれば、まずは自分が結婚しているのかいないのか、幸せなのかそうでないのかといった点について述べておかなければ、高みから勝手なことを言っているという印象が強まるばかりです。

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コメント

平野さん、はじめまして。
TBありがとうございました。
「西野坂学園時報」のLenazoでございます。

私が本書に決定的な不信感を持ったのは、「メラビアンの法則」を就職活動で用いられているのと全く同じ形で意図的に誤用して未婚者の攻撃の材料にしていることと、男性の「オタク化」(実際には女性の「オタク」も少なからずいるのですが……)を背景を調べることもなく印象論だけで結婚の妨げと罵ったこと、そして未婚=不幸という無根拠で無意味な断定です。大久保は近年就職能力は結婚能力(家庭形成能力)と正比例するという珍説を打ち出してきているのですが、それ以外のライフスタイルを取った、あるいは取らざるを得なかった(「やむを得ず」の理由のほぼ全ては、調べるまでもなく労働環境の悪化に伴う経済力の低下でしょう)人々への視座が決定的に欠けている点で、大変に問題があると言わざるを得ません。

私はこの機関には一定の評価をしていたのですが、このような名のある研究機関の長を名乗る人間にあるまじき本が出たので、評価を落とすことにしました。なお、著者代表の大久保幸夫は、民間の労働問題研究機関であるリクルートワークス研究所の所長という「責任ある」立場の方なので、前歴はいくらでも調べがつくと思われます。

投稿: Lenazo | 2006.10.29 08:55

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