2004.02.15

■「少子化対策」の下品さ

高知県の事例を紹介したあとで東京都の話をすると気が滅入ってきますが、昨年末、「少子化社会における東京の子育て支援:『子育てに希望と連帯の持てるまち・東京』の実現を」という提言が行なわれています。東京都児童環境づくり推進協議会(会長/無藤隆・お茶の水女子大学教授)がまとめたもの。

子育て支援に関する「9つの提言」と「7つの視点」が打ち出されていますが、別にその内容が悪いと言っているわけではありません。要は基本的な視点の問題であり、その視点が特定の施策だけではなく関連の施策全体で貫徹されているかどうかということです。具体的には子どもの権利保障を第一義的に考えているか、その視点に照らして他の施策も検証していくつもりがあるかということなのですが、東京都の他の動向を見るとそんなことは期待できない。そういう姿勢で進められる少子化対策は、かえって親子を息苦しい立場に追いやっていくのではないかという懸念があります。

少なくとも提言の概要を見るかぎり、そこには「子どもの権利保障」という視点がほとんどない。そもそも「子どもの権利」に一言も言及されていないのです。提言6では「青少年の『居場所』・『活躍の場』づくり」が提唱されていますが、どうせトイレ掃除のボランティアとか、おとなががっちり枠組みを定め、そこからはみ出すことはけっして許さない「居場所」や「活躍の場」が念頭に置かれているのでしょう(更新日記「都条例改定の動きも憂う」も参照)。

提言が少子化対策以上のものではないことをわざわざ標題で明確にしているのも、いまどき珍しいですね。いつも思うんですが、「少子化対策」という言葉には子どもや親(とくに母親)を国家の部品としてとらえる下品さがつきまといます。子どもや親に対する支援は、少子化だろうが多産化だろうが必要なもの。子どもが増えたらいいなあと思う気持ちは否定しませんが、せめてそのことを露骨に表に出さないだけの品性とか矜持は持ち得ないものなのでしょうか。まあ石原都政に品性や矜持を期待すること自体、ないものねだりというものかもしれませんが。

その下品さを国レベルで臆面もなく明らかにしてしまったのが少子化対策基本法。その大仰な前文には、市民よりも国家が大事なのだという発想がぷんぷんしています。だいたい、「子どもに関わるあらゆる子どもの最善の利益の原則(子どもの権利条約第3条1項「子どもにかかわるすべての活動において、……子どもの最善の利益が第一次的に考慮される」)は関連の法律で明文化しようともしないくせに、「社会、経済、教育、文化その他あらゆる分野における施策は、少子化の状況に配慮して、講ぜられなければならない」(第2条4項)と規定してしまうんですからね。子どもに対して責任を負っているおとなとしては、やっぱり恥ずかしいんじゃないでしょうか。

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2004.02.12

■各国の青少年対策

今国会で「青少年健全育成基本法」などについて議論される可能性は強いと思いますが、どうも国際的動向に逆行しているのではないかという感が否めません。

たとえばスウェーデン。同国における子どもの権利条約の実施戦略については「子どもの権利条約実施のための総合戦略を起草:日本こそ求められるスウェーデンのとりくみ」という原稿(1999年)で簡単に紹介していますが、これとは別に1999年に「青少年政策」というのが制定されています。政策そのものの英語版は見つかりませんでしたが、スウェーデン教育科学省のウェブサイトにフォローアップ報告書(2001年版2002年版、いずれもPDFファイル)が出ていました。

スウェーデン「青少年政策」のポイントは、公明党デイリーニュース「総合的な青少年政策の策定を――担当大臣を新設して実効挙げよ」(2003年6月7日付)が簡潔にまとめ、「いずれも、若者を大切にし、若者から学ぼうとする成熟した社会の風格を感じさせる」と評価しています。おまけに、同政策の実施を担当するリーナ・ハレングレン青少年問題担当大臣は当時29歳という若さ。プロフィール(PDFファイル)を見てみると確かに1973年生まれなのです。

で、この記事を発見した知り合いから、「スウェーデンの青少年対策は『青少年(およびその環境)の管理・規制』より『子どもの権利の尊重』に重きがおかれているのではないか」という質問が来たのですが、そのとおりだと思います。スウェーデンに限らず、アイルランドやニュージーランドなどでは子どもの権利、とくにその意見表明・参加の保障を基軸とした政策がとられるようになってきました(メインサイト「子どもの権利に関する総合的政策に関する資料」参照)。どちらかというと保守的なイギリスでさえ、子ども・若者参加を省庁横断的に進めようとしています(更新日記「子どもの権利条約inイギリス」参照)。

他方で日本の「青少年育成施策大綱」は、いちおう冒頭で子どもの権利条約にも触れているものの、いかに「規範意識」を身につけさせるかというところに力点が置かれており、青少年の権利保障や意見表明・参加の促進という視点は希薄です。なにしろ「公共への参画の促進」が具体的施策として出てくるのは青年期(18歳以上)になってからの話ですからねえ(PDFファイル21頁)。青少年健全育成基本法案骨子(案)も、申しわけ程度に「国は、青少年の健全な育成に関する施策の策定及び実施に資するため、青少年、保護者その他の国民の意見を国の施策に反映させるため必要な施策を講ずるよう努めるものとすること」と書いていますが、そもそも基本的な発想が国際水準からかけ離れているのでどうしようもありません。

国連・子どもの権利委員会からも、「青少年育成施策大綱において権利基盤型アプローチがとられ、条約のすべての領域が対象とされ、かつ2002年国連子ども特別総会の成果文書『子どもにふさわしい世界』のコミットメントが考慮されることを確保するため、市民社会および若者団体と連携しながら同大綱を強化すること」(パラ13(a))と、実質的に大綱の全面的見直しを勧告されています。青少年施策のあり方を根本的に見直すよう、公明党などにもがんばってほしいものです。

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2004.02.03

■「有害」情報一考

ジュネーブから帰ってきた日、留守中に発行された漫画雑誌をコンビニで物色していると、小学生4~5年かと思われる女の子2人組が一直線に18禁のコーナーへ。

見る人が見たら顔がひきつるシーンだなあと心のなかで苦笑しつつ、こんな女の子たちがいったいどんな「有害」情報を欲しているのかと横目で見ていたら、ひとりの女の子が振り向いて「えへへ」と笑い、「やっぱやめとこ」と逃げていってしまいました(笑)。かわいいもんですな。

でも、こちらが飲み物のコーナーに移動したら案の定戻ってきて、なにやら雑誌を開いて見ていました。そのあたりの棚においてある雑誌はどう考えても小学生の女の子が見たがるようなものとは思えず(時節柄あえて誌名は伏せますが)、いったい何の雑誌なのかどうしても気になったのですが、遠くからでもこちらの視線を意識したらしく、ピョンピョン出ていってしまって確認不能。べつにとがめるつもりはぜんぜんなかったんだけど、ごめんね(笑)。

で、単なるほほえましいエピソードということで終わりにしてもいいんですが、どうしてもほほえましいとは思えない人もいるでしょうから一言。

おとなが「これは子どもに見せたくない」という意思表示をするのは結構なことだと思うんですよ。だけど、おとなの視線を意識しながらそれをかいくぐろうとするのも子どもらしさなわけです。規制だ規制だと騒ぎ立ててとげとげしい視線を注ぐのではなく、女の子がえへへと笑うような、あるいは男の子がやべえとドキドキするような、そういう逃げ道のある視線を注げないものでしょうか。問われているのは、「おとなが子どもにどういう物理的環境を整えてあげているか」ということよりも、その環境のなかで(どのような)視線が注がれているか、ということだと思うのです。

というより、規制の必要性を言い立てる人はそもそも子どもに視線を注いでいるのか? 平野もしょっちゅうコンビニに行きますが、よくよく思い返してみれば、堂々と18禁の雑誌を見ている子どもなんてほとんど見たことありません。「堂々と」と言うより、18禁の棚の前に立ってる子どもさえ、まず見たことがない。都青少年健全育成条例改定に関する意見書で、「実際問題として青少年が『不健全図書』をどのように読み、どのように受容されているのかを調査しなければ、『極めて悪い環境』ということは不可能ではないでしょうか」と書いたのは、このエピソードが脳裏にあったからだなと、いまわかりました(笑)。

言い換えれば、コンビニの棚だけ見て「極めて悪い環境」などと決めつける人は、コンビニにもろくに足を運んだことがない、すなわち子どもに視線を注ごうとしない人たちなのではないか、ということです。子どもと向き合うのではなくコンビニの棚と向き合い、同じようにコンビニの棚と向き合っている子どもの姿を想像して、勝手に心配しているのではないかということです。いやあ非人間的な図ですね。

まずはなるべくコンビニに足を運び、『週刊文春』でも『AERA』でも立ち読みしながら子どもの様子を横目で見てみてはいかがでしょうか。ただし、おとなが立ち読みだけで済ませるのはさすがに店側に悪いので、なるべく買って帰りましょう。なお、間違っても袋とじをすき間からのぞこうとはしないでください(笑)。

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2004.02.02

■都健全育成条例改正について

都健全育成条例改正について、すべりこみで以下のような意見書を都に送りました。答申を読んでいたらますます腹が立ってきて、ちょっと激しい言葉遣いになってしまったかもしれません。あまり時間がなかったので必ずしも充分ではありませんが、それでも答申よりはましでしょう(笑)。

*意見書(メインサイトに掲載):東京都青少年健全育成条例の一部改正について

追記:この問題については他にもいろいろ意見書が出されていますが、北の系2004/「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部改正」についての意見などはいつもながら非常に体系的な内容です。関連資料も充実しているのでご参考までに。

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2004.01.21

■東京都青少年健全育成条例改正

東京都青少年健全育成条例改正に向けた青少年問題協議会の答申「青少年が安心して育つ環境を、大人が責任を持ってつくるために」が正式に採択されました。2月2日 (月)まで都民の意見を募集しています。答申のPDFファイル版は意見募集ページから入手できますし、「北の系」にはそれをHTML化したものも掲載されています。

いま詳細なコメントをしている余裕がなく、答申本文も読んでおらず、都に対する意見もぎりぎりまで出せないと思いますが、改正の焦点は、(1)深夜外出規制の導入、 (2)青少年からの古物買取の規制、(3)「有害」図書規制の強化の3点(1月19日付毎日教育メール、以下引用も同じ)。このうち(3)については出版業界等からいろいろ意見が出るでしょうし、(2)については、商行為である以上ある程度の規制も必要かなと思います。

(1)ですが、「大人が深夜(午後11時〜午前4時)、正当な理由なく親の承諾なしに小中学生(16歳未満)を連れ歩くことを禁止し、違反には罰金などの罰則を設ける」については、年齢についても配慮されていますし、「正当な理由」が議会および運用指針で明確にされるのであればいいでしょう。ただ、児童虐待が疑われるケースなどもありますので、何が何でも家に返さなければならないという風潮が広まるのは防がなければなりませんし、警察や児童相談所などの深夜体制も整備する必要があります。「親にも深夜、小中学生を外出させない努力義務を課す」というのも、子どもに対する安全配慮義務を怠るのもネグレクト(保護の懈怠)に含めるとすれば、考えうる改正です。いずれにせよ福祉的対応が必要であり、都には児童相談所体制のいっそうの充実を考えてもらわなければなりません。

問題なのは、現行条例でも規制されている「興行場やボウリング場、スケート場」に加え、「カラオケボックス、漫画喫茶、インターネットカフェ」まで18歳未満立入り禁止にするということ。実質的に青少年の深夜外出を規制しようという趣旨なのでしょうが、これだと路上かファミレスぐらいしか居場所はなくなり(ファミレスは自主規制してましたっけ?)、危険はかえって増すでしょう。密室性の高いカラオケボックスでは相対的に犯罪が発生しやすい可能性がありますが、それは深夜立入り禁止で解決する問 題ではありません。

そもそも、なんで18歳未満の若者たちが深夜に外出するのかということを考えようともしていないのが基本的な疑問です。若者たちに焦点を当てた意見募集が別に行なわれるべきですし、都議会でも子ども・若者の意見表明を保障した審議を求めます。

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2004.01.14

■次世代育成支援行動計画

平野が共同代表を務める「杉並に子どもの人権を守るしくみを作る会」で、杉並区「子 ども・子育て将来構想懇談会」に関する要望書を提出。同懇談会を通じ、次世代育成支援対策推進法で各自治体に義務づけられた行動計画づくりが進められています。

要望の趣旨は、とりあえず、(1)子どもの「実態」だけではなく「実感」の調査も踏 まえ、子どもの視点に立った検討を行なうこと、(2)充分な情報公開と効果的な住民 参加を保障すること、(3)「主要論点」と現行事業との関連を明らかにしたうえで議 論を行なうこと、の3点。(2)の点は次世代育成支援対策推進法にもとづく「行動計画策定指針」でも明示されています。(1)は、「行動計画策定指針」ではニーズ調査 の必要性という形で指摘されていますが、おとなの視点から子どもの「実態」を調査す ることもさることながら、子どもが日常生活のなかでどのように感じているのかを知る ことが大事だという趣旨です。

次世代育成支援対策推進法にもとづく行動計画づくりがいろいろな自治体で始められて いるはずですが、少しでもよい行動計画になるよう、市民が働きかけていくことが重要 でしょう。

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2003.12.29

■青少年施策の動向を憂う

それにしても、少年非行・少年犯罪に対するこのところの近視眼的な対応にはうんざりさせられます。上記パブリックコメントでは、子ども・青少年の育成にはエンパワーメントこそが重要だと強調しましたが、そういう視点はまったくなく、ひたすら管理統制の強化のオンパレード。

12月に正式決定された青少年育成施策大綱(PDFファイル)でもそういうニュアンスが強くなりましたし、やはり12月に犯罪対策閣僚会議がまとめた「犯罪に強い社会の実現のための行動計画:『世界一安全な国、日本』の復活を目指して」でも同様です(とくに第2部参照)。こんな調子で、自民党の目論見どおり「青少年健全育成基本法案/有害社会環境適正化自主規制法案」が制定されてしまったらたまりません。

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■都条例改定の動きも憂う

このような管理統制強化の流れを先取りする先兵が東京都です。「心の東京革命」にしても、10月にまとめられた「緊急提言~子どもを犯罪に巻き込まないための方策」にしても、わかりやすすぎて涙が出てきそう。子どもたちの声も聴かず、深夜外出の規制や深夜立入り制限施設の拡大など、子どもの居場所をさらに奪おうという青少年健全育成条例条例改定も進行中です(12月24日に出た答申原案が北の系2003に掲載されています)。

「緊急提言」については「最近読んだ本」のページで次のようにコメントしておきましたが、都の動きをきちんと批判することが「青少年健全育成基本法」の阻止にもつながるでしょうから、条例改定についてもそのうちコメントを出したいと思います。とりあえず、平野も呼びかけ人になっている条例改定反対署名にご協力を。マンガ規制反対が主眼ですが、青少年の意見聴取のための制度創設(陳情趣旨4)、子どもの権利条約を充分に踏まえた議論(同5)なども要求しています。なお、「緊急提言」についてはてっちゃん@ココログでもコメントされているのでご参照を。

(以下「緊急提言」についての平野のコメント)
 ついでながら、犯罪統制にばかり焦点を当てると何が飛び出すかよくわかるのが、東京都・子どもを犯罪に巻き込まないための方策を提言する会(座長/前田雅英・東京都立大学教授)がまとめた「緊急提言~子どもを犯罪に巻き込まないための方策」(2003年10月)。ガーディアン・エンジェルズ代表の小田啓二氏も委員として参加しています。
 「居場所」作りも施策のひとつに掲げていながら、深夜のコンビニ前に子どもたちがたむろすることの防止、より多くの防犯カメラの設置、警察と学校の連携の強化、虞犯少年の送致の拡大、「有害情報や有害環境」からの隔離など、子どもたちなりに見つけ出してきたストリートの居場所を一方的に奪おうとする提言のオンパレード。「子どもと一緒にトイレ掃除を行うことで荒れた学校や問題を抱える子どもを立ち直らせるような活動を……行っているボランティア団体」が「居場所」として位置づけられている(p.10)のは初めて見ましたよ。また、虐待を受けている子どもには避難場所のひとつも作ってあげようと思うようですが(p.15)、盛り場にドロップインセンターを設けて子どもがいざというときに駆け込めるようにしようなどという発想は皆無(pp.32-35)。「親父の会」のことを、実践している人たちにとってはかえって迷惑なんじゃないかと思うぐらい持ち上げているわりに(pp.11-12)、子育ての負担やストレスを一身に背負っている母親を支援するための具体的施策は挙げられていません。
 提言の効果をきちんと予測もせず、とにかく目についた問題を何でも規制するという方針で拙速に都青少年健全育成条例を改正しようとしているようですが、子どもの声に耳を傾けようともしないで「最近の子どもは全般的に対人関係が未発達であり、共感性やコミュニケーション能力が欠けていると言われる」(p.8)とはよく言ったものです。そのうちまとまった批判を書こうと思いますが、とりあえず、「思いつきだけで行動するのは……愚か者のすることだ……それを……得意げに話すのは、もっと愚か者のすることだ……」というゴルゴ13の言葉(第104話「スキャンダルの未払い金」リイド社SPコミックス29巻所収)を贈っておきましょう。

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